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第118回国際研修

平成13年(2001年)5月21日から同年7月13日

1 研修の主要課題

第118回国際研修は,「非行少年の施設内・社会内処遇における最善の実務」を主要課題と して行われました。

少年司法の分野において,国連は,児童の権利に関する条約(特に,その第37条と第39条),少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ),少年非行予防のための国連ガイドライン(リヤド・ガイドライン),自由を奪われた少年の保護に関する国連規則等の国際準則を整えることにより,模範的な実務の在り方を確立するために重要な役割を果たしてきました。

国連加盟国は,これらの国際準則に沿って,自国における少年司法制度を運用するための格別の努力を払ってきました。こうした努力により少年司法改革が進められる過程を通じて,技術協力の必要性が明らかとなり,国連国際犯罪防止センターの報告(E/CN.15/2000/5)にあるように,児童の権利委員会による監視活動,少年司法における技術的助言・協力のための調整パネルの設置,「国連・少年司法の国際基準及び模範的取組に関する手引」の発刊等の様々な取組が行われてきました。2001年5月,アジ研も,非行少年の処遇に関する国際研修を行うことにより,このような活動に加わることとなりました。

新しい世紀を迎え,法に触れた少年の処遇を担う機関は様々な問題に直面しています。処遇システムが,警察・検察・司法から送られる少年の量に圧倒されてしまっている国もあれば,非行少年にふさわしい取扱いを再定義すべきであるとの社会的圧力の結果,様々な法的・行政的変更を行った国もあります。また,ITを始めとする新しいテクノロジーの導入を切望しながらも,膨大な人的・金銭的コストを要するため導入することができない国もあります。また,犯罪者処遇のコストを削減し,犯罪者に分配される国富と他の国民に分配される国富の比率をより合理的にすべきだという圧力が強まっている国もあります。

こうした状況にかんがみ,2000年4月10日から17日にかけて行われた第10回国連犯罪防止会議は,「21世紀の課題に対応する,犯罪と司法に関するウィーン宣言」を採択し,犯罪の根本原因とリスク要因に焦点を当てた包括的な犯罪防止対策を講じること(パラ25)により,少年が非行化することを防止するための手段を実行すること(パラ24)の重要性を強調しています。

法に触れた少年たちの社会への再統合に当たっては,公的な少年司法制度の利用を最低限にとどめるべきであるという国際準則の要請は,近年のコミュニティ司法及び修復的司法の流れ(上記ウィーン宣言のパラ27と28を参照)とも合致していることを踏まえて,アジ研は,本研修を通じ,少年司法の分野における従来からの,また,新たに生じた困難に対する対策を考えることとしました。 こうした困難は,大別すると,非行少年の処遇に関するものと,処遇組織の管理運営に関するものに分けられます。本研修の研修員は,この2つの分野に関する多くの論点について議論することが求められます。

第一に,非行・再非行の可能性のある少年の効率的な処遇及び統制が重要です。非行少年の統制を通じ,効率的に犯罪を減少させるには,施設内及び社会内処遇において非行予防と処遇の一体化を進めることが必要です。「リスク・マネジメント」,「コミュニティ司法」,「修復的司法」,「マルチシステムに基づいたアプローチ」といった新しい概念が,非行少年の処遇を担う各機関の統合を促進しています。これらの概念は,(再)非行のリスクは,人生の早期に確定可能であり,様々な社会的資源を組み合わせた連続的な介入によって最小化することができるとの考え方に基づいています。

専門家のケースマネジメントの下に,効果的に張り巡らされた社会のセイフティ・ネット,連携した関係機関,そして,エンパワーされた地域社会を活用した介入が有効であることが示されており,研修員は,こうした統合的アプローチに基づいた実例とその実際について学ぶことになります。

さらに,ケース・ファイルシステムによって支援された,個別化された処遇の重要性はいくら強調してもしすぎるということはありません。個別のケース・ファイル(記録)システムが,ITを活用した,洗練されたデータベースとリンクされれば,絶えず変化する少年とその犯罪の動向を把握することも可能となります。しかしながら,コンピュータ・ネットワーク上で犯罪者情報を管理するには,並々ならぬ,技術的,法的/行政的配慮が必要です。研修員は,それぞれの国における犯罪者データ管理システムの導入,開発,活用について意見を交換することが求められます。

非行少年に対処する機関の効率的な管理運営も重要な分野です。第一に,犯罪者処遇の費用は,多くの国で大きな問題となっており,ダイバージョン,サービスの民営化,収益活動の促進といった対費用効果の高い処遇を求める動きを促しています。さらに,職員の研修は,処遇サービス提供者にとって重要な問題ですが,アジア・太平洋地域における多くの国にとり,非行少年のために働くために必要な態度と技能をその職員に身に付けさせることは,長年にわたる困難な課題です。また,職務の執行において,職員の廉潔性が疑われるケースもないわけではありません。研修員は,処遇の対費用効果を向上させ,また,非行少年の更生に携わる職員研修のあるべき体制を構想することが求められます。

第二に,近年,少年刑事司法は大きな変革を遂げつつあり,その結果,処遇行政の担当者にとって,公衆との関係のマネジメントは難しくなりつつあり,市民からの信頼が得られなければ適正な処遇サービスの提供が困難になりつつあります。研修員は,社会とどのように対話し,また,このように急速に変化する社会においてどのように期待に応えていったらよいかについて議論することが求められます。

上記の理由に基づき,本研修は,非行少年を処遇する機関の直面する課題を明確にし,その課題をのりこえるためのあるべき実務を探究することを目的として行われました。そして,アジア・太平洋地域のみならず,その他の地域において,これまでに試みられた対策の成功と失敗に学び,各参加国において適用可能な,最善の実務に到達することを目指して実施されました。

本研修における議論の焦点は,次のとおりです。

(1)施設内処遇における最善の実務

  • ア 成人犯罪者と別個に収容された上で提供されるモデル処遇プログラムの開発
  • イ 個別的処遇を提供するためのケースマネジメントシステムの設計
  • ウ ケース・ファイル(記録)システムの構築と,同システムの犯罪者データベース及び統計集計システムとの結合

(2)施設内処遇を提供する機関の管理運営における最善の実務

  • ア 限られた財政資源の戦術的な活用と対費用効果の最大化
  • イ 職員研修:スキルと廉潔性を高めるための研修体制とカリキュラムの構築
  • ウ 公衆との関係のマネジメントと処遇サービスへの市民の信頼の獲得

(3)社会内処遇における最善の実務

  • ア モデル処遇プログラムの開発
  • イ 個別的処遇を提供するためのケースマネジメントシステムの設計
  • ウ ケース・ファイル(記録)システムの構築と,同システムの犯罪者データベース及び統計集計システムとの結合

(4)社会内処遇を提供する機関の管理運営における最善の実務

  • ア 限られた財政資源の戦術的な活用と対費用効果の最大化
  • イ 職員研修:スキルと廉潔性を高めるための研修体制とカリキュラムの構築
  • ウ 公衆との関係のマネジメントと処遇サービスへの市民の信頼の獲得

2 客員専門家による講義の概要(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)チョミル・カマル氏(Ms. Chomil Kamal)
    シンガポール コミュニティ開発・スポーツ省更生保護局保護観察担当次長
    *講義テーマ
    「シンガポールの少年司法・処遇改革」
    「少年処遇におけるITの活用」
  • (2)トレーシー・W・ハラチ氏(Dr. Tracy W. Harachi)
    米国ワシントン大学準教授
    *講義テーマ
    「非行予防」
    「家族への働きかけ」
    「非行化要因」
  • (3)ロブ・アレン氏(Mr. Rob. Allen)
    イギリス エスミー・フェアバーン財団「刑罰に対する公衆の態度」プロジェクトリーダー
    * 講義テーマ
    「イギリスの少年司法改革」
    「地域社会を基盤とした少年処遇」
  • (4)パメラ・フィリップス氏(Ms. Pamela Phillips)
    オーストラリア クィーンズランド州コミュニティー・カンファレンシングコーディネーター
    *講義テーマ
    「修復的司法」
    「ニュージーランドの少年司法・処遇改革」
  • (5)アラン・レスチード氏(Dr. Alan Leschied)
    カナダ ウェスタン・オンタリオ大学準教授
    *講義テーマ
    「社会内処遇」
    「マルティシステミックセラピー」
    「認知行動療法」
    「処遇効果」

3 特別講師(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)東川 憲治氏(警察庁長官官房国際部国際第一課課長補佐)
    日本警察の概要
  • (2)島村  英氏(警察庁生活安全局少年課課長補佐)
    少年非行の動向と警察の非行対策活動
  • (3)倉島 和夫氏(法務省矯正局鑑別企画官)
    少年の鑑別
  • (4)吉田 秀司氏(法務省矯正局教育課長)
    少年の施設内処遇
  • (5)久保  貴氏(法務省法務総合研究所教官)
    職員研修(社会内処遇)
  • (6)鈴木 和雄氏(法務省矯正研修所長)
    職員研修(施設内処遇)
  • (7)宍戸 基幸氏(関東地方更生委員会事務局次長)
    地方更生保護委員会の業務
  • (8)高木 俊彦氏(法務省保護局観察課長)
    少年の社会内処遇
  • (9)白井 幸夫氏(家庭裁判所調査官研修所教官)
    少年審判手続の概要
  • (10)森下 賢一氏(家庭裁判所調査官研修所教官)
    少年審判における家庭裁判所調査官の役割
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