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第119回国際研修

平成13年9月10日(月)から同年11月2日(金)

1 研修の主要課題

第119回国際研修は,「国際組織犯罪の現状と対策」を主要課題として行われました。

国際間の人的物的交流の拡大に伴い,国際犯罪が増加しています。取り分け通信,交通,経済手段の飛躍的な進化を最大限活用しているのが国際組織犯罪集団であります。国際組織犯罪は,国際社会の安全と主権国家の安定にとって,ますます大きな脅威となりつつあります。国際組織犯罪は,国家経済及び世界的な金融制度,法の支配,並びに基本的な社会的価値観の信頼性を損なうものであり,その動向は深く憂慮されるところであります。

麻薬犯罪,マネーロンダリング,暴力行為及び恐喝,汚職腐敗行為,女性や児童の不法取引,銃器の不法製造及び不正取引,不法入国者の密輸,コンピュータ関連犯罪,盗難車両の不正取引,その他の組織犯罪は,アジア・太平洋地域を含む世界の様々な国々において重大な問題となっています。例えば,不法入国者の密輸は,送り込み先国における確立した入国管理政策を崩壊させるとともに,人権侵害の事態をも引き起こしています。また,人の不法取引は,強制売春という搾取の最たる手段として使われており,いわば現代的な強制的年季奉公という形をとって現れています。さらに,不法入国者の密輸及び人の不法取引は,国内及び国際的なレベルで犯罪組織の主たる資金源になっています。

国連は,こうした深刻な状況にかんがみ,国際組織犯罪の問題に対し,積極的な取組を行ってきています。2000年11月には,人(特に女性や児童)の不法取引及び不法入国者の密輸に関する2つの議定書とともに,国連国際組織犯罪条約が国連総会において採択されるに至りました。同条約は,2000年12月にイタリアのパレルモで開催された署名会議において120か国以上の国が署名し,さらに2002年12月12日までアメリカ合衆国のニューヨークにおいて署名のために開放されることになっています。

ところで,刑事司法機関に課せられた最も重要な課題は,組織犯罪集団の組織的構造とともにその不正活動を暴き,効果的に処罰することにあります。しかしながら,組織犯罪に特有の捜査の困難性複雑性から,組織犯罪者を検挙できない事態が起きています。特に,組織犯罪集団の中枢にまで分け入り,首謀者を検挙することが困難であります。そこで,法執行機関に新たな法的武器が必要とされるのであります。

国連国際組織犯罪条約は,国際組織犯罪と闘うために,様々な対策の導入を締約国に課しています。最も重要な規定の一つに,犯罪組織への参加を犯罪化する義務を締約国に課した第5条があります。第20条は,締約国に対し,国内法の規定する条件の枠内で,コントロールド・デリバリー (Controlled Delivery),電子的又はその他の形での監視 (Electronic Surveillance),おとり捜査 (Undercover Operation)等の特別な捜査手法の活用を求めています。同様に,第26条は,捜査及び裁判に協力的な者に対する刑事免責 (Immunity)の付与や処罰の軽減について検討すべきことを求めています。

そして,これらにより得られた証拠に証拠能力が付与されるためには,現行の証拠法則も改正を迫られる可能性があります。同条約は,締約国に対し,刑事手続において,証人や被害者が報復や脅迫を受けるおそれがある場合に適切な保護策を講じるべきことや, ビデオリンク方式又はその他の最新の通信技術を活用した証言や供述に証拠能力を認める証拠法の導入を奨励しています(第24条,25条)。

また,組織犯罪集団が犯罪収益を洗浄することによってこれを隠蔽蓄積している現状にかんがみ,マネーロンダリング行為の犯罪化が有効な組織犯罪対策になり得るとの認識から,国連国際組織犯罪条約は,第6条及び第7条においてマネーロンダリング対策に関する包括的な規定を設けています。

加えて,国際組織犯罪と効果的に闘う上で,国際協力が不可欠であることはいうまでもありません。そのため,上記条約は,犯罪収益の没収(第13条),没収財産の処分(第14条),犯罪人引渡し(第16条),捜査共助(第18条)といった刑事事件における国際協力に関する包括的規定を設けています。

このように,国連国際組織犯罪条約の採択により,国際社会が国際組織犯罪と闘う効果的で強力な手段を採り得ることは明白であります。そこでまず,国際組織犯罪に対し,有効に捜査,訴追及び裁判を行うために,各国の国際組織犯罪情勢を分析するとともに,国際組織犯罪対策の導入可能性及びその様式を検討することが重要であります。

かかる諸事情を踏まえて,国連の犯罪防止及び犯罪者処遇に関する地域研修所である当研修所は,今後実施する一連の国際研修及び国際セミナーを「国際組織犯罪対策」という総合的なテーマの下で開催することとしており,本コースはその一環として実施されるものであります。

以上の趣旨を踏まえ,本研修は,国際組織犯罪と闘うための対策や手法を強化改良する方策を探求することを目的として行われました。特に,国連国際組織犯罪条約の採択を受けて,その効果的な実施に焦点を当てました。世界各国に共通する諸問題に対し,他の国々がどのように取り組んでいるかについての実務的な情報や経験を交換しこれを共有することは,国際組織犯罪に対する我々の努力の一層の促進に資するものであると考え,実施されました。

本研修における議論の焦点は,次のとおりです。

(1)国際組織犯罪の概観

  • ア 不正薬物取引
  • イ 銃火器の不正取引
  • ウ 人(特に女性や児童)の不正取引
  • エ マネーロンダリング
  • オ その他(ただし,テロは除く。)

(2)国際組織犯罪と闘うための法整備の状況

  • ア 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化
  • イ マネーロンダリングと闘うための制度の確立

(3)捜査段階における国際組織犯罪に対する捜査手法及び組織犯罪者を処罰するために証人からの協力を得るための方策

  • ア コントロールド・デリバリー
  • イ 電子的監視(通信傍受など)
  • ウ おとり捜査
  • エ 刑事免責制度
  • オ 証人又は被害者保護制度

(4)国際組織犯罪対策としての国際協力(犯罪人引渡し及び捜査共助)

2 客員専門家による講義の概要(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)ディミトリ・ブラシス (Mr. Dimitri Vlassis)
    ギリシャ(国連)
    国連ウィーン事務所麻薬統制犯罪防止局国際犯罪防止センター
    犯罪防止刑事司法官
    *講義テーマ
    「TOC条約の成立の経緯,世界的な組織犯罪の動向等」
  • (2)マッティ・ヨッツェン(Mr. Matti Joutsen)
    フィンランド司法省国際課長
    *講義テーマ
    「犯罪人引渡及び捜査共助並」
    「組織犯罪集団への参加についての犯罪化及び共謀罪」
  • (3)ジェイムズ・モイニハン(Mr. James E. Moynihan)
    在日本合衆国大使館FBIリーガルアタッシェ
    * 講義テーマ
    「米国における組織犯罪集団に対するFBIの捜査活動」
  • (4)エドワード・ショー(Mr. Edward C. Shaw)
    在日本合衆国大使館FBIアシスタントリーガルアタッシェ
    *講義テーマ
    同上
  • (5)セベリーノ・ガーニャ(Mr. Severino H. Gana, Jr.)
    フィリピン司法省検察局次長検事
    *講義テーマ
    「フィリピンにおける組織犯罪の実態と対策」

3 特別講師(講義日程順・肩書きは当時のもの)

  • (1)東川 憲治氏(警察庁長官官房国際部国際第一課国際協力推進官)
    「日本の警察制度」
  • (2)水野 哲昭氏(金融庁総務企画局総務課特定金融情報室長)
    「特定金融情報室の活動状況」
  • (3)河村 博氏(法務省官房審議官)
    「日本の刑事司法の抱える課題」
  • (4)大窪 雅彦氏(警察庁刑事局暴力団対策部暴力団対策第二課課長補佐)
    「日本の暴力団の現状と対策」
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